
【作品紹介】
30歳を目前に入院したときの話です。みずから希望して病院を紹介してもらいました。当時は、精神科にはまだ解放病棟がありませんでした。つまり、どの窓にも鉄格子が嵌っていたわけです。精神科病棟に初めて足を踏み入れ、後ろでガチャンと鍵がかかると、これで人生終わったかという気持ちになりました。入院患者には、この道のベテラン(?)もいて、特に若い人は、そんなことあまり深刻に考えていないように見える人もいました。もちろん、内心はまた別の話です。日本では、精神科の長期入院という現実問題もあり、生半可なことで理解できる世界ではありません。わずか2か月間でしたが、得難い経験をしたと思っています。将来このことを必ず文章に起こしてやろう、と野心を持っていました。人生の雑事に追われ随分時間がかかってしまいました。作家になるような人というのは、はじめての体験をすると、例えそれが自分にとってマイナスでも、内心で「よしッ! 私は経験したぞ」と、思うそうです。僕もその点だけは同じです。
文芸思潮エッセイ賞で奨励賞(銅メダル)に輝いた作品です。
文学賞受賞歴: https://www.bungaku-sekai.com/about/#1
🏅「文芸思潮」エッセイ賞で奨励賞(銅メダル)を受賞
小倉 一純