欧米発、ってなんだべさぁ?
僕の文学の師匠は近藤健という人物だ。東京で25年暮らした後、室蘭を経由し札幌に転勤した。長年勤めたその会社を最近定年退職し、市内で転居した。最終勤務地が札幌だった。現在は藻岩山、手稲山、円山などを一望できる場所に暮らしている。近くの山まではわずか1.5kmほどの距離だという。
最近の熊騒動は、近藤さんも例外ではない。札幌市では2023年以降、熊の目撃情報が急増し、2025年には300件を超えたという報道もある。今年はこれまでに7頭が射殺されており、近藤さんは「もう疲れた」とFacebookに書いていた。
都立高校の同級生が、現在、北海道の登別に家族で暮らしている。登別といえば温泉地であり、洞爺湖や昭和新山にも近い。息子さんのアレルギーをきっかけに転地したという。その同級生は最近、チェーンソーの講習を受け、猟銃の免許も取得した。67歳にして、熊と向き合う父親となった。彼らが暮らすのは市街地ではない。
1990年代以降、欧米、特に北欧諸国から発信された動物福祉の理念が世界に広まった。熊などの希少動物の保護もその一環である。日本ではこの影響を受け、春先の熊猟が自粛されるようになり、かつてのマタギ文化は衰退した。1990年当時、北海道に約5,000頭と推定されていたヒグマは、現在では1万2,000〜2万頭に増加しているとされる。原因は複合的だが、熊猟の制限が一因であることは否定できない。
余談だが、捕鯨禁止の動きも欧米発である。日本は長年、調査捕鯨を続けてきたが、2019年に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開した。欧米の価値観が常に正しいとは限らない。たとえばフランスでは、動物福祉の議論がある一方で、ホアグラの生産が続いている。ホアグラはアヒルやガチョウに強制給餌を行い、肝臓を肥大させて作る。EUの一部ではこの方法が動物虐待とされ、禁止されている国もある。
また、フェロー諸島(デンマーク領)などでイルカ漁の慣習が残っており、湾に追い込まれたイルカが大量に殺される様子が報道されている。海が赤く染まる写真は、倫理的な議論を呼ぶ。
環境保護の名のもとに、スパイクタイヤの使用も世界的に規制された。北欧諸国では1970年代から粉じん公害が問題視され、日本では1990年代に札幌市などで条例が施行された。だが、冬期のアイスバーンが常態化する北海道では、スタッドレスタイヤだけでは不安という声も根強い。
外国からの理念を受け入れることは重要だ。しかし、それによって地域の生活が脅かされるなら、立ち止まって考える必要があるのではないか、と僕は思う。
小倉 一純



