バカはバカのまま

自分を語るエッセイ
機関誌『新しき村』昭和26年9月号(Wikipediaより)

【作品紹介】

武者小路実篤といえば、まず最初に手にとった作品は『友情』だ。恋愛小説である。
出世前の小説家・野島が、杉子という若い女性に恋をする。それを応援する友人の大宮。大宮は、野島より少し年上で、すでに文壇では名前が通っていた。やがて、その大宮が、杉子との結婚を発表する。男の友情をとるのか、それとも恋愛か。野島の嘆きと、彼がリベンジを誓うところで幕は閉じる。
武者小路が30代の作品だ。だが、後年50代になった武者小路に、あるインタビュアーがこの小説のことを尋ねると、あまり記憶に残っていない、という。「おいおい勘弁してくれよ」と思った。こっちは『友情』を青春の金字塔として心に刻んでいるのだからね。
武者小路実篤『友情』は、銀河テレビ小説(NHK)でも放送された(複数話)。寺尾聡が、主人公・野島を演じ、今は亡き岡江久美子が杉子役を好演した。線の少し細い、青白きにインテリ役に、寺尾がピッタリとはまっていた。忘れることのできないドラマである。
武者小路実篤は、農業こそ人間の本性に根差したものと考えるようになり、「新しき村」を主宰した。最初は、熊本県にあったがダム工事で水没し、埼玉県に移転する。
現在は、埼玉県毛呂山町というところに「新しき村」はある。ついこの間まで7~8人はいた村民(全員が高齢者)が今は3人になったという。存亡の危機を救う救世主として、武者小路実篤の実孫の名前が挙っている。
ヤマギシ(自然農法の団体)では「共同財産制」をとっているが、新しき村では個人所有の財産は認められている。
農業で生計を立てる場合、普通、まずは養鶏を行なう。卵を売って日銭を稼ぐためである。その上で年単位の米作などを行なう。
僕自身、農業の専門家というわけではないが、30代の7、8年を自然農法とともに過ごした経験がある。最初の1年は寮生活で、あとは会社員の傍ら土日をその時間に当てた。傍観者だったが、農業の何たるか、という言語下の情報を獲得できたと思っている。
さすがに今から新しき村の村民になろうとは思わない。以前も若い夫婦が希望したそうだが村民として採用にならなかったらしい。代わりに現在はサポーター制度を導入し、クラウドで資金を調達し、返礼として、村の特産品(卵、米、茶など)を発送している。

※「新しき村」公式HP → http://www.atarashiki-mura.or.jp/history/index.html

◆以下は、武者小路実篤『友情』の断片的内容です。

杉子が大宮と、野島には内緒で話している時の台詞はこんな風であったと記憶しています。
「野島様はそれは立派な方だと思うのです。でも、わたくし、あの方とは30分以上、一緒にいたいとは思えないのです」
既に痛烈な振られ方をしています。それを大宮が、野島を励ましつつ、まだまだ可能性があると、期待を持たせていたのが、却って仇となってしまいました。
美人は残酷だな~と思いました。

2025.5.6
小倉 一純