読書習慣復活なるか!?
1. 片山一行『職業としての「編集者」』H&I刊、2015年4月16日初版
2. 奥野武範『編集とは何か。』講談社刊、2022年3月22日初版
3. 吉野源三郎『職業としての編集者』岩波書店刊、1989年3月20日初版
4. 柴田光滋『編集者の仕事 —本の魂は細部に宿る―』新潮社刊、2010年6月20日初版
5. まむし『誰も教えてくれない編集力の鍛え方』JOB MAGAZINE 編集部刊、2023年12月1日初版
6. 白石正明『ケアと編集』岩波書店、2025年4月18日初版
7. 山田裕樹『文芸編集者、作家と闘う』光文社刊、2024年12月30日初版
8. 横道誠『みんな水の中—「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか―』医学書院刊、2021年5月1日初版
最近、この8冊をアマゾンでまとめ買いした。その結果、6~8の3冊は精読し他はそれなりに読んだ。面白くなかったというわけではなく、今の自分に必要なところだけ拾わせていただいたということである。
これから小説に取り組もうと決意した僕は、そのためにはまずはインプットであると考えた。
以前にも小説の書き方などハウツーものは何冊か買って書棚に置いている。しかし、僕の場合、それらがまったくといっていいほど、役に立たない。
僕の場合、発達障害があるからなのか、実務的な些細なことに大きな拘りを持ち過ぎるきらいがあり、他人様のいう総論とか各論がまったく頭に定着しない。自分でその各論のいくつかを実体験しそれが骨身に染みたところで初めてそういうハウツーもののページが頭に入って来る。
とはいうものの小説を書くという習慣が未だないからそういう各論を身に付けるのはまだ少し先の話である。もっともエッセイを習い始めて今年で8年となる。そういう意味では、すでに実務の一端の修行は積んでいる。
視点を変えて、編集者ものを読んでみることにした。1冊では現在の世の傾向が分からない。思い切って評判のよさそうな8冊をまとめて買ってみたのである。
7の山田裕樹氏は、集英社を文芸部長で退職した人物だ。その後、関連会社の重役を経て65歳で退職し、現在は70歳を少し回ったところだ。
集英社といえば僕らの世代では、『週刊プレイボーイ』には一方ならぬお世話になっている。山田氏は、そこで様々な作家と出会い、諸々のアドバイスをし、付き合いもし、多様なジャンルの作家を育て上げている。
そんな作家たちに対してどんなアドバイスをしたのか、具体的に、あるときは暴露的に、書かれている。僕にとっては目から鱗の思いだった。下手なハウツーものよりよほど頭に入ると感じたのだ。
2の奥野武範『編集とは何か。』では、出版業界の名物編集者を網羅し、それぞれのインタビュー記事を掲載している。さすがに選ばれた編集者たちだけあってどの記事も面白かった。中でも僕の興味を引いたのは、医学書院の白石正明氏である。昨年(2024年)、定年退職されたそうだ。その結果、実は、6. 白石正明『ケアと編集』岩波書店、2025年4月18日初版 だけは追加で購入している。ある意味、編集者・白石正明の集大成ともいえる内容である。
医学書院という名称からは、医療業界の関係者が読む本をつくっている会社だ、というイメージしかこれまで持って来なかった。しかし、この白石氏が第1作から担当した「ケアをひらく」シリーズ累計40数冊(2025年5月30日現在では50冊)は、医療とは無関係の人間が読んでも面白い。
そもそも「看護」とは医師の指導のもと将来の健康のため現在は少し辛いけど治療を受けましょうという、目的のために今を辛抱する、というスタンスである。一方、「介護」とは、今が幸福であればそれが一番という刹那的観点に立っている。
そんな看護と介護とが同じ医療現場で働いていれば自ずとそのポリシーのぶつかり合いが生じる。つまり仲が悪くなるのである。そんな現場の様子を知ってこの白石氏がその両者を「ケア」という言葉で繋げ、この「ケアをひらく」シリーズを創刊したのだそうである。2000年のことだった。
その白石氏がいうには、そのケアと編集とは、根本的な部分で繋がりがあり、似ているという。引いては、ケアは、文学とも通底する。
これから小説を目指す僕にとって、「ケアをひらく」シリーズは一読に値すると感じた。50冊まとめて購入すればおよそ10万円というところだろうか。
この2週間で8冊の本を読みましたという中二的なご報告である。
というのも僕はこの30年ほとんど読書をして来なかった。中学の頃は、遠藤周作のエッセイで純文学に目覚め、高校時代は受験勉強もそっちのけで新潮文庫などに没頭していた。
それとは別に、早川文庫のSFにも夢中になっていた。当時父親によく「もっとまともな文学作品を読め」といわれたものだったが、SFは十分に文学であるとその頃の僕は思っていた。
そんな僕も両親の希望で大学卒業後はサラリーマンとなった。
余談だが、サラリーマンという名称は職業名であるにも関わらず性別を含み現在ではNGワードのひとつに数えられているが、僕らの世代では他にピンとくる言葉がない。勤め人では時代がかっているし、ビジネスマンという言葉は僕の人生には馴染まない。つまり他に呼び方がない。
サラリーマンになったのが悪かったのか僕は精神的にも追い詰められ、30代に入ってからはその後ずっと精神的な健康状態は右肩下がりだった。
結局、2000年を迎え42歳の厄年で会社を辞め、その後15年間は実家でブラブラと不毛の時を過ごしていた。なぜか日本の景気とも呼応している。現在僕が所属する純文学の同人・随筆春秋と出会ったのは還暦も近くなってからである。
30代40代50代と僕はほとんど読書をせずに過ごして来たのである。
ただ情報弱者となっていたわけではなかった。下手の横好きでパソコンとだけは毎日向き合っていた。生来、僕は、新しい物好きで機械好きである。ネット上に転がる様々な情報をそれなりに吸収していた、と思う。
今回、読書習慣が蘇ったきっかけは断酒である。別段、アルコール依存症であったというわけではない。65歳を回って体力が落ち、所属している同人誌の仕事もあってか、体力的に限界に達していた僕は、毎日の晩酌習慣から足を洗うことにした。その結果、空いた時間が出来、そこを読書に充てることにしたのだ。
今回はその成果を密かにご披露した次第である。
小倉 一純
読書習慣復活なるか!?
