若者よッ 艶を捨てアンドロイドになろう!

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CG:小倉 一純

若者よッ 艶を捨てアンドロイドになろう!


 僕は昭和世代で最初は製鉄会社に勤務していました。それから精密機械、化学と3社を経験しています。仕事で、地面に鼻の頭を擦り付けて土下座したこともありました。土日、毎週のように出社したとしても、自分の能力が足りないから休日出勤したのだと考え、手当は請求しませんでした。
 そういう話を持ち出して、今時のZ時代を感化すると、パワハラ、モラハラに問われるわけです。テレビで、街頭インタビューをする番組がありますが、仕事熱心な感じの中年男性(就職氷河期世代、50歳前後)が、自分の経験を熱く後輩に語ったら、もう少しで訴訟を起こされるところだったと語っていました。
 最近は、大手企業でも、新入社員の初任給は大幅に上昇し、初年度年収で500万円も、それほど驚くべき数字ではありません。僕など北大を卒業して大手企業に20年相当勤務しましたが、そんなレベルの給料をもらうことは容易ではありませんでした。
 男性から女性に対するセクハラが問題になっていますが、僕が最初の会社の「給湯室」で経験した様子には語るに堪えないものがありました。若い女子社員たちが集まっていて、
「あの部長、わたしたちに質問するんだったら、もう少し勉強して来いっていうんだよな! まったくもうッ」
 と、取締役一歩手前の管理職をバカにしていました。そんな給湯室にうっかり入ってしまった僕はその様子を垣間見て、それはちょっといい過ぎだろ——と思ったものでした。
 ダメンズ男性社員に対して、「キモイ、気持ち悪い」を連呼するは、今でいうと、間違いなく、モラハラかセクハラに該当しますね。
 もっとも当時の女子社員は大卒で入社しても「一般職」ということがありました。「総合職」になるのは、一部の優秀な女子社員に限られていました。そんな女子社員には男子社員には分からない鬱憤もあったのだろうと思います。
 それにしても、今時の会社での「セクハラ」の線引きは厳しいですね。拙宅のリフォームをお願いしているミサワホームの定年後再雇用の元課長は、現在は役職定年で一般社員となっています。
 その人は、女性社員に個人的なことを聞くわけにはいかないから、彼女らとは毎日、天気の話ばかりしているそうです。いつもの女性社員が、ある日、ショートヘアにしてくると思わず口から、「早乙女さん、髪切ったねッ」と洩れそうになる言葉を必死の思いで抑えるのだそうです。
 通勤電車の中では、キレイな女性を見ても、ハッと表情を変えたりしないそうです。痴漢に間違われては大変だからです。座っている男性は、手は膝の上に置き、立っている男性(そういう意味ではありません)は、必ず両手でつり革を握る。これも、今時の男性が、我が身を守るための、処世術です。
 最近は、旧来のマスコミを小馬鹿にするような、インフルエンサーと呼ばれる高学歴の若者が、疑似放送局のMCとしてユーチューブなどに出演しています。彼らは、ジャーナリストという立場です。そのせいか、コンプライアンスには非常に敏感で、そのことに関してよく勉強しています。ろくな勉強をして来なかった僕など、まともに反論する勇気すらありません。
 そんな彼らが、番組で、女性の若手ジャーナリストを招いて、最近の世相に関してトークを行なうのですが、その様子が、僕から見ると、とても奇異なのです。
 その場にはまったくといっていいほど「艶」というものがありません。若い男女が並んで座っているというのに……。もっとも2人ともジャーナリストを自称しているわけですから、今時の「範」とならなければならないわけです。
 そんな彼らはまるでアンドロイドのようです。

文とCG:サポート期間が終了した、小倉 一純

昭和の艶っぽい師弟:若手エッセイスト(左)と大御所の女流作家(右)/CG:小倉 一純