石田 健『カウンターエリート』文藝春秋刊、2025.4.20発行・書評

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石田 健『カウンターエリート』文藝春秋刊、2025.4.20発行. という本がある。製本版を買った。まず第1章でつまづいてしまった。戦後リベラルの崩壊と彼は書いている。リベラルというと、1990年代中盤以降の、小さな政府のもと、人種・性別・学歴・家柄によらず、能力のあるものが成功者となる時代を指しているのか、と僕は思った。この時代はグローバル化の波とも呼応している。しかし彼は、戦後体制全体を通してリベラルといっている。つまり、戦後のアメリカを覇権国家とした西側諸国の、終戦から現在までの勢力下での、制度全般を指す言葉だったのだ。そのことが分かるまで数日かかってしまった。僕が思っていたのは、ネオ(新)リベラリズムというものだ。僕の学習が足りないのはいうまでもないが、意味として複数レイアーの重層構造をなす「リベラル」という言葉については、どんな意味でそれを使うのか事前説明が欲しかった、と思う。

形骸化した戦後リベラルの崩壊に一役買っている人々を彼は「カウンターエリート」と呼んでいる。トランプ大統領や、この間までその側近だったイーロン・マスクなどを、代表選手として挙げている。おかしな連中だと一笑する前に、彼らには、戦後リベラルにおける様々な既得権益をぶっ壊し、新しい時代を呼び込む役割がある点に注目して欲しい、と主張する。そんな彼らをもう少し評価すべきであるといっている。ただし、カウンターエリートたちを、石田は全面的に称賛しているわけではない。

小倉 一純