【作品紹介】
Z世代、ゆとり世代の若者には、「春闘」とか「メーデー」といっても分からないと思う。僕の世代(昭和30年代生まれ)では、毎年春になると、<ベースアップ>(景気や業績を反映した労働者全員の賃金の底上げ)と<定期昇給>(年齢や能力に応じた個人別の賃上げ)の金額が業界毎に発表された。ちなみに僕が最初に勤めた製鉄会社は、「鉄鋼労連」に属していた。鉄鋼労連とは製鉄各社の労働組合の連合会のような組織である。5月ともなると地域の企業が集まって、帽子を被ったり、プラカードを持ったりして、労働者の権利や賃上げ要求のメッセージも掲げながら、工業団地内を練り歩いたりする。終わるとそれぞれのグループに分かれて駅前の居酒屋で軽く一杯飲んで解散。参加者は、特に共産党や社会党に属しているわけではないが、メーデーというのは別名<労働者の祭典>ともいわれ、どう見てもその方面の色彩が強かった。社内で行われる労働組合活動も同様である。近頃は、この鉄鋼労連なども、3年に1度ぐらい、TVニュースにちょこっと顔を出す程度となっていた。
小倉 一純
工場その3・萌えの向こう側

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