真夏の紅白歌合戦

ブログ・文学世界ドットコム

真夏の紅白歌合戦

 父が亡くなったのは2021年の春でした。その年、中国の武漢が発生源だというコロナが世界を席巻しました。
 1980年を挟んだ10年間、日本中に旋風を巻き起こした角川映画の、『復活の日』(SF作家・小松左京原作)を思い出さないわけにはいきませんでした。パンデミックがテーマの映画です。
 草刈正雄と、あのオリビア・ハッセーが揃って出演していて、テレビCMでは、米国の巨大潜水艦が、緊急浮上だったか潜水をするところが、センセーショナルな演出で映し出されていました。
 2021年の暮れにNHKの紅白歌合戦を録画したのですが、父が亡くなったことと、コロナも重なって、結局、ゆっくり番組全編を鑑賞することができませんでした。
 ショックだったのは、女優の岡江久美子がやはりこのコロナで亡くなったことでした。彼女は、NHKのテレビ小説で、武者小路実篤の恋愛小説『友情』をかつて好演しています。主人公の杉子役でした。
 夫で俳優の大和田獏と再会したのは遺骨になってからだったといいます。同じ時期に、我家がお世話になっている在宅医療のケアマネさんのお母様も亡くなっています。彼女が再会したのもお母様が骨壺に収まってからでした。
 超猛暑です。パナソニックのレコーダーで録った2021年暮れの紅白歌合戦を毎日、母と観ています。母は現在98歳となり、在宅医療の力も借りて自宅で療養中です。
 番組内で流れる午後9時のNHK全国ニュースでは、大雪に関する注意警報が流されています。積雪の絵柄を見ているだけで涼しくなったような気がします。
 紅白歌合戦は面白くなくなったといわれますが、視聴率は未だに30%ほどあり、この2021年の紅白は、個人的には、当たり年だったと思います。テーマは「カラフル」。番組内ではCGがふんだんに使われ、あの『津軽海峡冬景色』(歌:石川さゆり)も相当に見ごたえのあるものになっています。
 考えてみると、歌謡曲はエッセイと似ています。純文学の小説がクラッシックであるとすると、エッセイは演歌などの歌謡曲と同様、短い時間でその世界観を体現した一編の芸術作品ではないでしょうか。
 この頃は大御所歌手も続々と引退し、若手の大人数のグループが英語や早口で何か訳の分からぬことを歌っているという中高年も多いと思います。しかし、こうやって紅白歌合戦をじっくりと、しかも何度も繰り返し観ていると、それぞれのグループの個性も際立ってきます。
 一押しは、女性3人がグループのPerfumeです。2021年当時はメンバーは30歳くらい。彼女たちは10代の頃から活動しています。成熟したテクノポップとでもいえばいいのでしょうか。昔、夢中になって読んだ、早川文庫のSF小説に出てくる、作品中のアイドル歌手グループのような感じがします。楽曲「ポリゴンウェイヴ」は圧巻です。舞台の造作やCGの演出もスゴイ。
 真夏の「紅白歌合戦」は、一興です。

小倉 一純

Perfume「ポリゴンウェイヴ」